こんにちは。清瀬バプテスト教会の牧師の松田真之介です。この4月から教会のブログを始めました。教会のことや、聖書のことなどを書いていますが、毎週金曜日は「牧師の本棚から」ということで、牧師が読んできて感動した本や教えられた本などをご紹介したいと思います。

6回目は長谷川和夫の「ボクはやっと認知症のことがわかった」です。著者の長谷川先生は認知症の専門医で、「長谷川式スケール」という認知症診断の基準を作成した方で、いわば認知症の第一人者のお医者さんです。その認知症の専門医の先生が、自らが認知症になられ、そこからわかったことなどを綴られている本です。

著者の長谷川先生は、クリスチャンでいらっしゃって、この本の中でもご自身の信仰の体験のことを証されています。認知症になってからも、娘さんのサポートなどがあり講演などをされているそうですが、最近はテーマをそれて信仰のことなどを話をし始めてしまうそうです。認知症になって、イエス様のことを話し続けてしまうほど、長谷川先生にとって信仰が一番深いものだと感じさせられます。

「認知症になった父に寄り添って 検査法開発の精神科医91歳 娘の気づき、一冊に」(朝日新聞2021年1月28日)

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14780775.html?_requesturl=articles%2FDA3S14780775.html&pn=4

この本では、長谷川先生の認知症への若い頃からの取り組みなどが紹介されていて、そこから日本における認知症の歴史についても学ぶことができます。昔は痴呆症と呼ばれていたところから、認知症に改めていった経緯など初めて知ることが多く、学ばされました。

 

私たちはおじいちゃんのことをよく知っているから大丈夫

この本の中で特に印象に残っているのが、以下のところです。

昔、わが家の近くに家内の両親が住んでいました。ある晩、家内とボクと下の娘が食事に行ったところ、アルツハイマー型認知症となった家内の父親がこういったのです。
「みなさまはどなたさまですか? どなたかわからなくて困っているんです」
とても不安そうな様子に、ここまで症状が進んでしまったかと家内もボクもショックを受けて、シーンとしてしまいました。どうしようか、何と答えようか。そう考えていると、下の娘がこういいました。
「おじいちゃん、私たちのことをわからなくなったみたいだけど、私たちはおじいちゃんのことをよく知っているから大丈夫。心配いらないよ」
それを聞いて、義父はとても安心したようでした。

この娘さんが語られた「おじいちゃん、私たちのことをわからなくなったみたいだけど、私たちはおじいちゃんのことをよく知っているから大丈夫。心配いらないよ」 という言葉は、なんと素晴らしい声かけだろうと思わされます。

自分はわからなくなってきて不安になっている時に、「私はあなたを知っているから大丈夫ですよ」と言われたら、どんなに安心できるだろうかと思います。そして、この「大丈夫、私はあなたを知っているよ」というのは、まさに神様が私たちに対して語られているメッセージだと思わされます。

詩篇139篇では次のように「私を知っていてくださる神」を賛美しています。

詩篇139篇

1,主よ。あなたは私を探り、私を知っておられます。

2,あなたこそは私のすわるのも、立つのも知っておられ、私の思いを遠くから読み取られます。

3,あなたは私の歩みと私の伏すのを見守り、私の道をことごとく知っておられます。

4,ことばが私の舌にのぼる前に、なんと主よ、あなたはそれをことごとく知っておられます。

13,それはあなたが私の内臓を造り、母の胎のうちで私を組み立てられたからです。

14,私は感謝します。あなたは私に、奇しいことをなさって恐ろしいほどです。私のたましいは、それをよく知っています。

15,私がひそかに造られ、地の深い所で仕組まれたとき、私の骨組みはあなたに隠れてはいませんでした。

16,あなたの目は胎児の私を見られ、あなたの書物にすべてが、書きしるされました。私のために作られた日々が、しかも、その一日もないうちに。

 

神様は私が生まれる前から、全てを知っていてくださる。「知っていてくれる」、それだけで支えられるものがあります。私が神様のことを知らない時にも、神様は知っていてくださった。一番人生の苦しかった時のことも、イエス様は知っていてくださる。

教会でも認知症のご家族を抱えておられる方がいます。そのご家族の方がお祈りの中で、「(認知症の家族が)イエス様を忘れてしまったとしても、イエス様が覚えていてくださいますから感謝します」というお祈りをしておられるのを聞きました。私は本当にその通りだと信じています。

私がたとえ神様を忘れてしまったとしても、神様は私のことを知っていてくださる。いつまでも覚えていてくださる。それはとても慰めです。

認知症は家族にとって本当にショックですし、介護で苦労されている方がたくさんいらっしゃることと思います。優しくできない時だってあると思います。辛くて、投げ出したくなる時だってあるのだと思います。

私たちには愛せないことがあります。十分なことができないこともあると思います。その苦しみもまたイエス様が知っていてくださる。イエス様はその家族の苦しみも知っていて、それぞれに慰めと支えを与えてくださると思います。イエス様は介護で苦しんでいるあなたのことを知っていてくださる。イエス様からの平安を介護する人も、される人も皆が受け取れますようにと祈らされます。

「私たちはあなたのことを知っているから大丈夫ですよ」この言葉を腹の底からの言葉として、またその上での軽やかな心からの言葉として語れるものとさせていただきたいと願わされます。